『吉原と日本人のセックス四〇〇年史』永井義男×『男娼』中塩智恵子×現役風俗嬢・曼荼羅【座談会・後編】

遊女の初体験、男娼との3Pや性病まで! 吉原遊廓の“お江戸性事情”座談会

2018/07/01 21:00
dannsyou627
『男娼』(光文社)

 吉原遊廓の誕生から400年がたった今年、『吉原と日本人のセックス四〇〇年史』(辰巳出版)を刊行した永井義男氏と、『風俗嬢という生き方』(光文社)をはじめ風俗の現場に迫るルポルタージュを執筆している中塩智恵子氏、そして吉原でのソープ嬢経験もある現役風俗嬢の曼荼羅氏による、吉原と日本の風俗をめぐる座談会。前編では、現代にも色濃く残る“吉原観”の文化的背景などを語り合ったが、後編は、遊女たちの初体験から引退後、性病や男娼など、“江戸時代の性事情”を詳しく掘り下げる。

前編:「吉原遊廓はすごい!」は作られた“幻想”? 江戸時代~現代をめぐる風俗文化のウラ側

<出席者>
永井義男(ながい・よしお)
1949年生まれ。『算学奇人伝』(祥伝社文庫)で第6回開高健賞を受賞。時代小説家として100作以上の著作を持ち、最近では江戸の性風俗を研究した著作を多数刊行している。著書に『吉原と日本人のセックス四〇〇年史』(同)、『本当はブラックな江戸時代』(辰巳出版)、『江戸の売春』(河出書房新社)など。

曼荼羅(まんだら)
デリヘルで風俗デビューし、出稼ぎ&吉原ソープを掛け持ちした後、現在は素人童貞などSEXに自信のない悩める男性のためにプライベートレッスンをしているアラフォー風俗嬢。

中塩智恵子(なかしお・ちえこ)
1974年生まれ。宮城県石巻市出身。アダルト系出版社を経てフリーランスのライターに。現在は主に週刊誌で執筆。政治家、文化人、芸能人、風俗嬢、ウリセンボーイ等と幅広い取材活動を行う。近著に『男娼』(光文社)、『風俗嬢という生き方』(同)。

 遊郭、男娼、3Pまでも……差別的目線はなかった江戸時代

中塩智恵子(以下、中塩) 最近、『男娼』(光文社)というルポルタージュ本を出させていただいたんですけど、江戸時代に「陰間茶屋(男娼が売春する場所)」はあったんですよね。働くのはもちろん男性なわけですが、お客さんも男性のみだったのでしょうか? 女性も利用していたようですが。

永井義男(以下、永井) 女性のお客さんはかなり少なかったと思いますよ。というのも、倫理的な問題より、当時の女性はとにかく経済力がなかったから。陰間茶屋は非常に高額で、当時の女性にはとても無理だったんです。

中塩 身分の高い武士の奥さんが内緒で遊びにいった、という話は文献に残っていますよね。それは経済的に余裕があったからなんですね。

永井 それも、よっぽどお金の自由が利く人じゃないと無理でしょうね。当時、お金を使って自分の好きなことができるという女性は、本当にごくごくわずかだった。

中塩 現在でも同性愛者を差別的な目で見る人はいますけど、当時はどういった状況だったのでしょうか?

永井 江戸時代の場合はそういう白い目で見られるようなことはなかったと思いますよ。そもそも男色を差別する感覚自体がなかったんです。だから、男が陰間茶屋に行くのもコソコソ行っていたわけじゃないらしいですね。

中塩 そういう感覚、いいですね。春画を見ると、男同士のもののほかに、陰間茶屋の子と、お客さん、それに遊廓の女の子が戯れる、いわゆる3Pが描かれたものもありますよね。

曼荼羅 え! その頃から3Pってあったんですか? 春画にまで残っているということは、否定的な反応はなかったんですね。

永井 春画は男の憧れ、あるいは妄想を代弁していますからね。もちろん、実行している男もいたと思いますが、かなり金がかかった。逆からいえば、金さえ出せば、陰間と芸者を呼んで3Pプレイをすることもできたでしょうね。

曼荼羅 へぇ~! 今とは違う考え方というか、倫理観というか……。そういう部分もやっぱりあるんですね。勉強になります。

中塩 男娼つながりで、最近、江戸時代を舞台にした『のみとり侍』という映画を見まして……。猫のノミ取りで収入を得るという建前なんですけど、要は男娼の話なんですよ。ああいう男性は本当にいたんでしょうか?

永井 いや、フィクションだと思いますよ。ただし、盛りを過ぎた陰間が転向して、女を相手にする男娼になる例はあったようです。原作『蚤とり侍』(光文社)の作者・小松重男さん(故人)は、「皆が思い描いているようなカッコいい武士ばっかりじゃなかったんだよ」という観点から武士を描くユニークな方でした。僕はあの人の書くものは好きでしたね。

中塩 フィクションなんですね、ちょっと残念です(笑)。でも、映画は楽しめましたよ。阿部寛さんと豊川悦司さんがいい演技で。

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